中国の古典『韓非子』を読んでいたら、「自給自足のセミリタイア生活」を送っていた兄弟が処刑されたエピソードがあった。
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太公望が治める国に2人のセミリタイアしている兄弟がいた。
彼らは次のような「主義」を立てていた。
「我々は誰にも雇われたくない。
お金も地位もいらない。
食料と水は自給自足できる。
他人から恵んでもらう必要はない。
だから、役人として働かずに、農作業だけやる」
有能だけど役に立たない者は死刑
太公望は彼らを処刑した。
彼らは賢者だった。
なのに太公望は処刑した。
処刑の理由を聞かれた太公望は答えた。
「宮仕えしない者は役に立たない。
お金も地位も欲しがらない者は、報酬や役職をちらつかせてコントロールすることができない。
宮仕えしてくれなければ国の役に立たない」
だから処刑した、と。
「三顧の礼」を無視されて切れた
太公望は単に「役に立たない」という理由だけで彼らを処刑したわけではなかった。
太公望は「役人として採用したい」と三度も兄弟の家を訪れたが、玄関前で門前払いを食わされた。
つまり「三顧の礼」をしたけどすべて無視された。
それでブチ切れて処刑したのかもしれない。
諸葛孔明は『韓非子』を読んでいた?
この話と関係ないが、『三国志演義』では諸葛孔明は劉備の「三顧の礼」を受けて軍師として仕官した。
ひょっとして孔明は『韓非子』を読んで太公望の処刑のエピソードを知っていたかもしれない。
「三顧の礼を3回とも無視したら、俺も殺されるかもしれない」
と思って重い腰を上げて劉備に仕官したのかもしれない。
※今回紹介したエピソードは『韓非子【第三冊】』(岩波文庫, 1994) 外儲説右上第三十四(六)より。