日本の高齢者は若者に比べて貯蓄をたくさん持っている。
なんでだろう?
総務省の家計調査(2017年1~3月期)によると、世帯主が70歳以上の平均貯蓄額は2,405万円だ(2人以上の勤労者世帯(第8-5表))。
70歳未満の年代別の平均貯蓄額は次のとおり。
- 29歳以下 466万円
- 30代 653万円
- 40代 1,114万円
- 50代 1,744万円
- 60代 2,304万円
- 全体 1,820万円
50代から60代になると平均貯蓄額が560万円跳ね上がるのはおそらく「高額な定年退職金」なのかもしれない。
高齢者がたくさん貯蓄を持っている理由は、高度経済成長で給料が右肩上がりで、定年時に退職金をいっぱいもらえたから、だけだろうか?
他に理由はないのか?
そんな疑問に答えてくれた本が、『貯め込むな! お金は死ぬ前に使え。』(荻原博子(著),マガジンハウス,2014)だった。
(Kindle Unlimitedに入っているので、会員は無料で読める)
高齢者が貯蓄に走る理由
70歳以上の高齢者がなぜ貯蓄に走るのか?
本書では次の3つの理由があるという。
- 飢餓体験
- 貯蓄教育
- 銀行不倒神話
1の「飢餓体験」とは第2次世界大戦の戦中から戦後にかけての食料不足、モノ不足の体験だ。
特に、生存に不可欠な食料が不足すると「将来に備えて食べ物を蓄えておこう」とする。
お金も食べ物と同じように考えて「蓄えないといけない」という思いがあるのだろう。
2の「貯蓄教育」とは、戦後の経済復興のために政府が進めた貯蓄推進政策だ。
戦争で破壊された経済を立て直す「復興資金」を調達するために、かなり強引な「貯蓄教育」を学校でやったらしい。
学校で「こども通帳」なるものをつくり、毎月、決まった日に、小学校の5年生、6年生が学校の体育館に集められ、そこに現物のお金を持ってこさせて貯蓄の訓練をするのです。実際にお金を預けさせ、それを、実際に金融機関が回収していくという、子どもに対する強制貯蓄が行われていたのです。
pp.17-18
高齢者たちは子ども時代に「貯蓄しろ!」と学校でたたき込まれたのだ。
3の「銀行不倒神話」とは、国民が安心して銀行に預貯金できるように当時の大蔵省は「銀行は一行もつぶさない」方針を打ち出した。
こうやって、安心して貯蓄ができるシステムができあがった。
老後不安で使えない
貯蓄をいっぱい作っても、今度は老後不安で使えない。
寿命がのびて「医療費」「介護費」にたくさんお金がかかりそうなので、怖くて使えない。
本当に「医療費」「介護費」にお金がかかるのか?
わたしが本書を読んで目からウロコだったのが「介護費はみんなが思っているよりも低コスト」ということ。
紹介されている介護に関するアンケートによると、「介護には3,000万円以上かかる」と思っている人が多いようだ。
実際は、平均で500万円台だ。
見積額と実績値の間に2,000万円以上の差がある。
参照介護にはどれくらいの年数・費用がかかる? (生命保険文化センター)
見積金額は3,000万円で実際の費用は500万円……もし、会社の業務でこんなに精度の悪い見積書を作ったら顧客や上司に大激怒されるだろう(笑)。
高齢者達は、必要以上に老後におびえ、過剰な貯蓄に走っている実態が見える。
まとめ
現在の高齢者は、幼少時代の飢餓体験と貯蓄教育で「貯蓄体質」になってしまった。
老後は医療費や介護費のコストを過剰に見積もりすぎてお金が使えない。
いたずらに将来不安におびえずに正しく老後に必要なお金を見積もれば、楽しみのために使うお金は捻出できる。
マガジンハウス
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