仕事でイヤなことがあって辞めたくなったとき、この詩が保存されてあるテキストファイルをよく開いていた。会社のPCにこっそりと保存していた。
ぼろぼろな駝鳥 (高村光太郎)
何が面白くて駝鳥を飼ふのだ。
動物園の四坪半のぬかるみの中では、
脚が大股過ぎるぢやないか。
頸があんまり長過ぎるぢやないか。
雪の降る国にこれでは羽がぼろぼろ過ぎるぢやないか。
腹がへるから堅パンも食ふだらうが、
駝鳥の眼は遠くばかり見てゐるぢやないか。
身も世もない様に燃えてゐるぢやないか。
瑠璃色の風が今にも吹いて来るのを待ちかまへてゐるぢやないか。
あの小さな素朴な頭が無辺大の夢で逆まいてゐるぢやないか。
これはもう駝鳥ぢやないぢやないか。
人間よ、
もう止せ、こんな事は。
駝鳥と自分を重ねあわせ、居心地の悪い環境に耐えている自分を慰めていた。
退職する時に、PCから詩の入ったテキストファイルを削除した。もうこの駝鳥のような思いはしなくてよい。退職日の朝から瑠璃色の風が吹いてきた。