オリンピックに出たとしても将来の保証、特に老後の生活を保証してもらえるわけではい。なのに、目の前の勝負に全力を尽くせるのはすごいと思う。
競技をしながら、
「引退したら何をしよう」
「俺の年金、いくらくらいなんだろう」
なんて考えている選手はいないと思うが、引退後のセカンドライフというのは全選手共通の問題だろう。
引退した選手にとって、再就職は厳しく、選択肢は狭いらしい。
引退したアスリートのセカンドキャリアの成功例を見ると、指導者か解説者かタレントしかいないのではないかというほど偏っている。そのなかで、最も現実的なセカンドキャリアである指導者への道もそう簡単に進めるわけではない。
……
実績と知名度のあるオリンピアン以外のアスリートが指導者になれる確率は、それほど高いはずがないのである。それにスポーツ産業もそれほど市場があるわけではない。
そうすると、オリンピックを目指して競技生活を続けたアスリートのほとんどは、一般社会に出てスポーツと関係のない職業を選ばざるをえない。しかし三五歳まで競技生活を諦めなかったアスリートが、社会経験がまったくない状態で就職活動をしたとしても、採用してくれる企業はほとんどない。そのために、生活が相当苦しくなっている元アスリートを、僕は何人も知っている。
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ソチ・オリンピックでは葛西紀明選手が41歳で銀メダルをとった。これを「投資」で見ると「究極の集中投資」であることがわかる。40歳を過ぎているので、もう他の選択肢はない。後戻りできない大きなリスクを取って挑戦し、みごとリターンを獲得した。
指導者として将来が約束されるのはメダリストクラスの選手だけだろう。解説者やタレントは「人気商売」だ。将来の保証はまったくない。オリンピック選手は国を背負って健闘したのだから、結果にかかわらず最低でも公務員として再雇用するくらいしてもいいのではないか。