サラリーマンが早期退職してセミリタイア生活に入るというのは、貴族になることだ。
と、『神聖ローマ帝国』(菊池良生(著), 講談社現代新書, 2003)という本を読んで思った。
貴族というのは「お金持ちで優雅な生活を送る」というイメージがあると思うが、「君主に面従腹背で好き勝手なことをして生きている人」というのが本質だ。
要するに「自由人」。
本書は中世ヨーロッパ史の本だけど「セミリタイアという貴族生活」成功のためのノウハウ本でもある。
自由=財力
神聖ローマ帝国という名は世界史で習った程度の知識しかなかった。
962年~1806年の間、現在のドイツ・オーストリア・フランス・イタリアあたりを支配した「帝国」だ。
「帝国」と言っても、皇帝を頂点とした強大で侵略好きな中央集権国家というわけではない。
皇帝は中央にいるが名目的なお飾りで、配下の貴族(諸侯)は皇帝の言いなりにならず好き勝手に地方に独立王国を作っていた。
なぜ、貴族たちは皇帝のいうことをきかず、やりたい放題できるのか。
理由は簡単で財力があるからだ。
貴族の地位は世襲なので、何代も既得権を持ち続けるとカネがどんどん貯まっていく。
カネがあるということは権力も軍事力もそれなりに保有している。
地方の貴族が財力(それに付随する権力・軍事力)にモノを言わせて帝国から独立してしまうのだ。
セミリタイアという独立王国
本書を読んで、「セミリタイア = 貴族」だと思った。
サラリーマンをやっているときは会社や上司という「君主」の顔色をうかがいながら「家臣」として会社依存の生活を送る。
会社を辞めて「独立」したくても財力がないときは辞められない。
その後、ある程度のまとまった貯金ができて知恵がついてくると、会社のいうことをきくのがバカらしくなってくる。
「自分の好きなように生きていきたい!」という欲望がむくむくと起き上がってくる。
で、会社を早々に退職してセミリタイアという貴族生活に入る。
「帝国=戦争好き」というイメージ
あと、帝国といえば「戦争好き」「周辺の弱小国をいじめる」というイメージを持っている人が多いと思う。
例えば、スターウォーズの銀河帝国やナチス・ドイツの第三帝国など。
でも、神聖ローマ帝国の歴史を見ると、帝国が戦争好きな理由は「皇帝の権力が弱すぎるから」だとわかる。
神聖ローマ帝国では皇帝の権力が弱すぎて、地方の貴族がしょっちゅう反乱をおこす。
そのたびに皇帝が反乱鎮圧のために出兵する。
配下の貴族だけでなく、ローマ教皇も無理難題を押し付ける。
ローマ教皇から「十字軍を出してエルサレムを奪還してこい。さもなくば破門する!」と脅され、しぶしぶ中東まで遠征する。
だから、「帝国 = 戦争好き」というイメージが定着した。
本書を読んでそう思った。
※※
結局、神聖ローマ帝国は貴族たちをまとめきれず解体し、貴族たちの領地はその後のドイツ、フランス、イタリアといった近代国家になっていく。