「会社を辞めたい」
「でも……だから辞められない」
と「言い訳」するのは『徒然草』の時代から存在する日本の「伝統」だった。
『徒然草』の第59段に、出家・隠遁できないときによく使われる「言い訳集」が載っている。
「出家・隠遁」とは現代では「早期リタイア」だと言える。
仕事を辞めて俗世間から距離を置くのは「出家・隠遁」と「早期リタイア」はよく似ているからだ。
三大言い訳
『徒然草』にある「出家・隠遁を先送りするときによく使う言い訳」を現代風にアレンジするとこうなる。
- 今は忙しいから、今の仕事が一段落してから考える
- 急に仕事を辞めると周囲から批判されるからもっと準備をしてから辞める
- 今までずっと先送りしてきたのだから、あと少し先送りしても問題ない
これらの言い訳に対して『徒然草』の著者(兼好法師)は、
「毎日雑用はどんどんやってくるから”仕事が一段落する日”なんかやってこない。だから、出家・隠遁(早期リタイア)を”決断”する日もやってこない」
とツッコむ。
死は待ってくれない
なぜ、兼好法師は早期リタイアを先延ばしすることを批判するのか。
それは「死」が迫ってきているからだ。
人間の命は、その人の都合に合わせて、待ってくれようか、待ってはくれない。死という無常がやってくるのは、水や火が攻めてくるよりも速くて、逃れがたいのだ。
『徒然草』(島内裕子校訂・訳,ちくま学芸文庫,2010)p.127
「大事なことを先延ばしし続けていると、”死”に追いつかれちゃうよ」というわけだ。
となると、早期リタイア資金として用意したお金は「遺産」となる。