竹中平蔵、田原総一朗著『竹中先生、日本経済 次はどうなりますか? (田原総一朗責任編集 オフレコ! BOOKS 2時間でいまがわかる!)』を読む。日本企業が成長するためには、労働者を解雇しやすくするより、ダメな社長をクビの方大事だそうだ。そのためには、独立した社外取締役を設置すべきと主張する。
田原 独立した社外取締役の、いちばんの役割って何ですか?
竹中 代表取締役をチェックし、いざというときその首に鈴をつけること。ダメな社長をクビにすることです。財界は、そういう独立した社外取締役がいては困る、と猛反対しています。もう露骨に、よく恥ずかしげもなく言うなあ、と呆れはてるほどです。
田原 経団連が反対で、経済同友会も経団連に遠慮があるのか、腰が引けていますね、でも、そんなことでは、日本の企業は社長にゴマをする茶坊主ばかりになってしまう。
竹中 雇用調整助成金なんてやめて、労働者を塩漬けにせず、もっと将来性のある企業なり産業なりに移動してもらいましょう、といま申し上げましたね。同じことが、企業の社長についても言えることなんです。
実はアメリカの年金基金が2013年から、独立した取締役を置かない会社については株主総会で代表取締役の人事を否認する、と決めました。莫大な基金を株式に投資している大株主だから、能力のない社長が企業に居座って利益率が上がらない状態など断じて許さない、というわけです。
……
独立した取締役を置かなくてもかまわないという日本の企業は、実に恥ずべき状態にあるんです。
田原 経営者は、従業員の雇用のルール化を求めているんでしょう?
竹中 「雇用の流動化」を主張しています。しかし、それをいうなら、いやそれよりも日本の成長戦略に必要なのは「社長の流動化」だと思います。ダメな社長を退出させる仕組みを作らなければ、日本の経済成長はおぼつきませんよ。
田原 労働者の雇用ルール化は、もっと柔軟にしてほしい、だけど、ダメ社長を退場させるルールの導入は絶対にイヤなんて自分勝手は、もう通用しないんだ。
グローバル化に大賛成の経団連が、どうして「独立社外取締役」という欧米企業では当たり前の制度に猛反対なのだろう。
経団連の主張を検索してみると、
経営の適正な監督を行うことができるか否かは、社外取締役であるといった形式的な属性ではなく、個々人の資質や倫理観といった実質により決まる。また、監督を行うにあたっては、専門的な経営判断の妥当性をも見極める必要があるが、社外取締役であれば常にそうした能力を備えているとは限らない。それにも関わらず、社外取締役の選任義務付けという形式的なルールを一律に導入することには合理性がなく、各企業の規模・業種・業態に適したガバナンス体制の構築を大きく制約する結果にしかならない。
「会社法制の見直しに関する中間試案」に対する意見(2012/1/24)
「社外取締役であれば常にそうした能力を備えているとは限らない。」のが反対理由みたいだが、それは逆で、「能力がある」外部の人間に口を出されるのが嫌なだけだろう。
社外取締役とか解雇ルールとかいうのは、上は経営者から下は従業員まで巻き込んだ、壮絶な既得権争いだ。日本経済の成長うんぬん以前に、自分の尻に火が付いた人たちだ。なりふりかまわず会社に群がり、他人を蹴落として残り少ない甘い汁を吸い続けるか、淡々と逃亡資金を作ってさっさとつまらないことから足を洗ってのんびり暮らすか。
既得権にしがみつくしか生きる道がない……そういう生き方だけは避けたいものだ。