山口揚平『なぜゴッホは貧乏で、ピカソは金持ちだったのか?』を読む。タイトルから「ゴッホ」「ピカソ」の比較論を想像するが、わたしはお金との付き合い方、働き方、仕事の辞め方を書いた本として読んだ。
本書では「失業率が高いことは問題なのか?」と疑問を投げかけ、「失業をあえて肯定したい」とする。会社自体に中身がなくなっているからだ。
そもそも日本のサラリーマンは、失業者や生活保護を批判するが、今の都会の大企業では、ほんとうに必要な仕事、つまり付加価値を出している仕事は、多く見積もって4割程度だろう。もしかしたら8割の人は無駄なことや、他人(他部署)の仕事をつくり出すための仕事をしているだけかもしれない。実際は社内失業をしている人も多い。
もはや会社の多くは、価値を生み出す経済体ではなく、月30万~50万円の給与という名の年金を配る生活保護団体と化しているようにも見える。そんな組織を、銀行も政府も必死になって支えるという構図だ。
本書p.194-195
大手企業の社員は仕事をしていない
大企業の仕事のほとんどは、下請け、派遣社員、関連会社が行っている。職場を見渡せば、社員の大部分が業務請負、派遣社員という企業も多いのではないか。仕事の発注を出したり、進捗管理するだけの仕事が「付加価値」があるとはいえない。
大手の製造業も実際の製造は中小に投げて、自社のラベルを貼って出荷している会社もある。当然、ラベル貼り自体も中小に投げているので製造業と言いながら自社では何も製造していない。
では、なぜ付加価値を生まない無意味な仕事にしがみつくのか?単に生活費のために仕方なく仕事をしているのだろうか?
本書では「当然、違う」と言う。お金のため、つまり「飢えるのが怖い」という理由だけで仕事をしているわけではない。
現代人が会社にしがみつく(または就職してしがみつきたがる)本当の理由は……それは本書を参照してください。
ヒントは、大手企業社員(公務員も?)の主要業務は「出世すること」。
失業・無業は不幸なのか?
会社にしがみつく理由がなくなれば、失業・無業が不幸とはいえなくなる。本書では、
失業率は、もはや負の数字ではない。むしろ”労働解放率”と言い換えるべきかもしれない。
本書p.195
ただし、解放されるには「辛い苦行が必要」と言う。
まずは、骨の髄まで染み込んだ労働者根性を徹底的に洗い流す必要がある。そのためには、ニートや浪人として、名実ともに生産を放棄する期間が必要だ。きれいさっぱり洗い流すのに、通常は1~2年かかる。
最初は慣れないだろう。ニート初級者ができるのは、せいぜい単純な暇つぶしである。
本書p.196
ずっと労働者として洗脳されてきたのだから、労働しない自分を許せるまでに時間がかかるかもしれない。「労働は善、不労は悪」という倫理観を持って生きてきた(教育されてきた)なら、なおさら辛い苦行だ。労働から解放?されて何もしない日常に耐え切れず、かといって再就職もできず、就職できても職場になじめず、中途半端な状態で苦しむ人が多い。
お金とは、会社で働くとは、リタイアとは……色々考えさせられる一冊だった。