川島博之『「食料自給率」の罠 輸出が日本の農業を強くする』を読む。
本書を読むまでは「日本の農業は高齢化がすすんでいる。農業を成長産業とするためには、若者を担い手として育成して、農業人口を増やさなければならない」
と思い込んでいた。しかし、
農業の担い手を育成すればするほど、農業が衰退する。
という大きな矛盾が存在していることがわかった。
理由はシンプルで、
日本の農地は狭い。よって農業人口が増えると、1戸あたりの農地が狭くなる
からだ。
本書によると、農業を成長産業とするには「規模拡大」しかない。なのに若者を担い手として就農させても割り当てられる農地は限られているので、新規就農者が増えるほど1戸あたりの農地は狭くなる。
1戸あたりの農地が狭くなると「規模拡大」と逆方向に向かう。これでは「儲かる農業」にはならない。
本書の試算では、39歳以下の新規農業就労者の数が毎年2008年と同じペース(+14,400人/年)で40年続けば、1戸あたりの農地面積は8ha(8万平方メートル)となるとしている。
ちなみに海外の農家の1戸あたり面積は、フランスが45ha、日本と同じ島国のイギリスでも36ha。
つまり、日本農業の問題は「土地が狭いのに、農業人口が多すぎる」ことだ。農業を目指す若者が増えても、割り当てる土地がないのだ。高齢の農家が持っている土地をすべて新規就農する若手農家に与えたとしてもイギリス、フランスの規模にはならないだろう。
じゃあ、土地を集約して規模を拡大して、やる気と能力のある若手農家を選抜して「少数精鋭」で世界と戦える農業にすればいい。
書いてしまうと簡単な事だが、これが不可能に近いことが本書を読むとわかる。
日本人の「郷愁」と完全に対立するからだ。
先祖代々ずっと守り続けてきた、のどかな農村の風景、里山、棚田……これらを壊して欧米のような広大な農地を作り、人がほとんどいないだだっ広い農村で大規模農業をする、なんてことができるだろうか。毎年帰省している故郷がサラ地になって、他人の広大な畑になることに賛成できるだろうか。
農村票で生き延びている政治家も反対するだろう。農業を大規模化して農村人口が減れば、その分「農村票」が減る。地方の国会議員にとって死活問題だ。人口減で地盤が消滅したり選挙区をいじられたら大変だ。
「農業の担い手育成」が国民に支持されている限り、国や自治体は税金を投じて農業人口を増やそうとするだろう。ただ、この政策では地方の選挙民や納税者の数を増やすことはできるので地方の国会議員、地方議員、自治体職員の食い扶持は安泰になるが、「成長産業としての農業」にはならない。
使える税金は限られている。「昔ながらの農村風景を守る」のか「成長産業として育てる」のか明確にしないと「税金で食う人たち」が増えるだけで終わりそうな気がする。