本棚の本を整理していると、太宰治『人間失格』のページに折り目がついてるのに気がついた。
昔、読んだ時に印象に残った言葉が書いてあるページにつけたのだろう。
そのページを開いてみると、「恥の多い生涯を送って来ました」で始まる手記の一節だった。
金の切れめが縁の切れめ、ってのはね、あれはね、解釈が逆なんだ。金がなくなると女にふられるって意味、じゃあないんだ。男に金がなくなると、男はただおのずから意気銷沈して、ダメになり、笑う声にも力がなく、そうして、妙にひがんだりなんかしてね、ついには破れかぶれになり、男のほうから女を振る、半狂乱になって振って振って振りぬくという意味なんだね、金沢大辞林という本によればね、可哀そうに。僕にも、その気持わかるがね。
お金がなくなった男の末路を、こんなに簡潔に表現した文はない。
男はお金がなくなると精神的に落ち込み、他人を妬み、世の中を恨み、孤立していく。
お金がなくなると、男は自分に「人間、失格」の刻印を押してしまう。
「うなるほどお金を貯めこむ必要はないが、やっぱり生きていくのにお金が大事なんだな」
と、これを初めて読んだ時に感じて、過去のわたしはページに折り目をつけたんだろうな。
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