新卒で就職した頃に読んで「よかった!」と思えた1冊は、
城山三郎『打たれ強く生きる』(新潮文庫 1989)
だった。本書は単行本として1985年に出ているので、30年以上売れ続けているロングセラーだ。
わたしは大学卒業間近に買って、入社前後に読んだ。
タイトルから「職場で理不尽な仕打ちを受けても耐えてがんばれ!」という本であるような印象を受けるが、そうではない。
確かに、本書には「職場で理不尽な仕打ち」を受けた人の実例がたくさんでてくる。
希望部署に配属されない
仕事のやりかたがわからないのにプライドが邪魔して訊けない
仕事で大失敗
大病で職場離脱
いいモノを作ってもお客さんが振り向いてくれない
左遷
子会社の子会社へ出向
などなど。
サラリーマンが経験する可能性がある「挫折」のほぼすべてが本書に詰まっている。
もちろん、本書を読んでよかったと思えたのは「挫折から立ち直る方法」が書いてあったからだ。
「打たれ強い」というのは「我慢する」「耐える」ではなく「立ち直る」ことなのだ。
本書の中で、わたしが一番好きなのは「おれたちは歩こう」というエピソード。
※※
過労がたたって失明してしまった男をなぐさめるため、仲間が集まった。
会が終わって飲み歩いた後、彼らが帰宅のバスに乗ろうとすると、大勢のバス待ちの客が殺到して、盲目の男は突き飛ばされ、転倒しそうになった。
仲間のうちの兄貴分が、転倒しそうになった目の見えない彼を助けてこう言った。
「おれたちは歩こう」
「いま日本中の者がおくれまいと先を争ってバスに乗っとる。無理して乗るほどのことでもあるまい。おれたちは歩こう。君もだんだんと目が悪くなっているようだが、万一のことがあっても、決して乗りおくれまいと焦ってはならんぞ」
※※
「おくれをとりたくない」、という理由だけで焦って無理をしてはいけない。