田中俊之『男が働かない、いいじゃないか!』 (講談社+α新書 2016) を読んだ。
本書は「男性学」の視点から男性が働くことの意味を見つめなおす。
男性学の基本的スタンスは、
朝起きて「会社に行きたくない」と考えるのは正常な思考回路
だ。
「男子たるもの、いい学校を卒業して、新卒一括採用でいい会社(または公務員)に就職してフルタイムで定年まで働くのは当然だ」
という従来の価値観を、すべての男性に押し付けるのはもはや不可能となっている。
「フルタイムで会社でバリバリ働く生き方」と同様、「働かない生き方」「会社以外の場所で働く生き方」など、「多様なライフスタイル」を受け入れたほうが生活しやすいんじゃないのか、ということだ。
「大学→新卒一括採用で就職→結婚→出産→マイホーム購入→定年→やることがなくボケる」
という「一択しかない人生」は息苦しい。
無職は「恥」なのか
本書によると、最近は非正規雇用が当たり前になってきているので「非正規=努力不足・自己責任」という論調はなくなってきているようだ。
現在台頭しているのは「無職はけしからん論」らしい。
雇用形態にかかわらず、男性を「働いている側」と「働いていない側」に分類して、無職だけは絶対にゆるさないという風潮が広まっているのです。
(中略)
男性だけでなく、女性や高齢者も働くことが期待されていますし、幼児でさえキッザニアで職業体験をする世の中なのですから、無職の男性は恥じるべきという認識がかつてないほどに高まっています。
pp.32-34
世間は人手不足で「一億総活躍社会」だから、早期退職しにくいのかもしれない。
わたしが退職したのはデフレ不景気真っ最中の2011年だった。
2016年の現在は「会社が超多忙な時期に自分が退職すると同僚に迷惑をかける」という空気が広まっているのかも。
本当は1人くらい急に辞めても会社は痛くも痒くもないんだけど。
「働かない罪悪感」だけを理由に働いても面白くない。
男は働かなくてもいいのか
本書のクライマックスは最終章の「さいごに―男が働かなくてもいいですか」だ。
「働く=会社で長時間拘束されて理不尽な要求に耐え続けること」と近視眼的に見てしまうと、生きるのが苦しくなる。
人生の時間には限りがある。
サラリーマン人生に行き詰まっている人、会社を辞めて「働く意味」を模索している人には勉強になる1冊だと思う。
目次
第1章 就職できなくたって、いいじゃないか
男性にもいろいろな人がいる
正社員として就職できないと人生終わりですか
フリーターよりもブラック企業の正社員のほうがましですか
働くなら中小企業より大企業ですよね
無職って恥ずかしくないんですか
ひとつの会社で働き続けるべきですか
公務員は安定していますよね
生き残る企業はどこですか
男なら夢を追いかけるべきですか
男の価値は年収で決まりますか
第2章 女性に悩んだって、いいじゃないか
女性との関係をどう考えるか
どうすればモテますか
恋人がいないのは変ですか
相手を選ばなければ結婚できますよね
低収入の男は結婚できないって本当ですか
女性をリードできないとダメですか
女は主婦になるのが幸せですよね
共働きを続けるのは無理がありませんか
産後クライシスって何ですか
イクメンは理想の父親像ですよね
第3章 会社に怒ったって、いいじゃないか
職場の権力問題を考える
一生懸命働くことの何が悪いんですか
定時に帰ってもいいですか
競争に負けるのは自己責任ですか
パワハラはされるほうにも問題がありますか
「うつ」は他人事だと考えて大丈夫ですか
育児休業を取ってもいいですか
一般職って楽をしすぎですよね
管理職の女性は無理をしていますよね
無能な上司にどう接すればいいですか
第4章 世の中のせいにしたって、いいじゃないか
老害に鉄槌を下す
世の中、間違っていますよね
昭和のほうが幸せでしたか
未来に希望はありますか
人とのつながりを大切にしなきゃダメですか
これからは地方の時代ですか
グローバル化にはどう備えればいいですか
政治に関心を持つ必要はありますか
どうして多様性を認めなきゃいけないんですか
結局、社会は変わりませんよね
さいごに―男が働かなくてもいいですか