近松門左衛門の『曾根崎心中』を遅ればせながら読んだ。
久しぶりにハマった物語だ。
何回も読み直した。
読んだ本は『曾根崎心中 冥途の飛脚 心中天の網島 現代語訳付き』( 諏訪 春雄(訳注), 角川ソフィア文庫, 2007)だ。
江戸時代の大坂にある商家で「中間管理職」として勤めていた徳兵衛(25歳)が、恋人のお初(19歳)と心中した。
原因は「お金」だ。
「中間管理職」徳兵衛の逆玉
徳兵衛は叔父が経営する醤油屋「平野屋」に
「手代」とは番頭と
今で言えばプレイングマネージャー的な管理職だ。
部下の丁稚のマネージメントをしながら現場で実務もこなす。
恋人のお初は茶屋の天満屋で遊女をしている。
ある日、徳兵衛に縁談が持ち上がった。
相手は勤務先の平野屋の主人の姪だ。
地位と財産があっても妻に頭が上がらない人生はイヤ
今で言えば勤務先の社長の親戚と結婚するようなものだ。
サラリーマンの徳兵衛にとってはいい縁談だ。
もし結婚できたら、将来の出世と財産が約束される。
しかし、彼は恋人のお初がいるから縁談を断る。
断ったもう一つの理由は「妻に頭が上がらなくなるから」だった。
社長の姪と結婚して「出世と財産」を妻に依存するようになると、この先ずっと妻に頭が上がらなくなる。
「一生妻の機嫌をとり続ける人生はイヤ」だというのだ。
一生女房の機嫌取り此の徳兵衛が立つものか。
江戸時代、大坂の商家の妻(当主の妻)は
商家の経営や人事にも介入できた。
もし結婚したら彼は養子になるから頭が上がらないどころか、仕事でもプライベートでも何の権限もない、かなり屈辱的な人生になったかも。
徳兵衛は「”エリートサラリーマンなのにヒモ”、みたいな人生は送りたくない」と拒絶したのだ。
人生の詰み
縁談は徳兵衛の知らないところで、叔父夫婦と徳兵衛の義母との間ですすんでいた。
すでに叔父は徳兵衛の義母に「持参金」を支払っていた。
現代の貨幣価値で数百万円のお金だ。
徳兵衛の「縁談拒絶」を聞いて、叔父夫婦は激怒する。
彼に解雇を通告し「持参金を返せ」と言う。
なんとか持参金は義母から取り返したが、取り返した持参金を友人の九平次に貸してしまう。
これが徳兵衛とお初の命取りとなる。
仕事を失った上に借金のトラブルで信用とお金を失い、心中へ。
大坂は商売の町。
お金と仕事と信用を失えば人生終わり。
「昨日今日まで”心中”なんか他人事だと思ってたのに、まさか自分が……」というお初のセリフが印象に残った。
詳しいストーリーは本書で楽しんでほしい。
関連書籍
古典が苦手なら『週刊誌記者 近松門左衛門 最新現代語訳で読む「曽根崎心中」「女殺油地獄」』(文春新書)から読んでもいい。現代語訳と詳しい解説がある。
『曾根崎心中』にハマってしまって、角田光代版の小説も読んでしまった。
▼『曾根崎心中』の本を読む時間がないときは解説動画をどうぞ。