吉本佳生著『日本の景気は賃金が決める』 (講談社現代新書 2013)を読んだ。
第2次安倍政権の経済政策「アベノミクス」は、年2%の物価上昇を目指している。
しかし、本当にすべての品目が2%値上げされたら家計に響く。
本書では「家賃」だけを狙い打ちにして値上げさせて物価目標2%を達成せよと説く。
それが一番家計に優しいからだ。
家賃だけを上昇させる
持家派が圧倒的に多い日本では、持家の帰属家賃が消費者物価指数の中の15.6%を占めます。ふつうの家賃は3.1%しか占めません。両者の比は5対1です。だから、持家の帰属家賃が上がれば、消費者物価も上がります。ただし、計算の考え方としては、持家の帰属家賃はふつうの家賃に連動して上がるので、ふつうの家賃を含めた家賃全体が上がることが必要です。
「帰属家賃」は持ち家の持ち主が自分に払っていることになっている仮想的な家賃だ。
なので、帰属家賃が上がっても持ち家の持ち主の家計には被害はない。
帰属家賃を上げるには賃貸物件の家賃が上がることが必要だ。
だから、賃貸物件の家賃を意図的に上昇させれば、連動して帰属家賃も上がる。
家賃の値上げによって2%の物価目標が達成できたら、他の品目は値上げしなくてもいいからインフレの被害は最小限に食い止められる。
賃貸派は持家派に比べて少数派なので実施しても国民から猛反発される可能性は低い、ということだ。
家賃の上昇で消費者物価が上昇した例として青森市の例を挙げている。
青森市は2002年、東北新幹線の盛岡―新八戸間の開通で、家賃が前年比13.7%上昇した。
このとき消費者物価上昇率(コア指数)は2.1%だった。
物価を2%上昇させるために家賃が毎年14%近く値上がりする。
もし現在5万円の物件に住んでいる場合、毎年13.7%家賃が値上がりしたら今後10年の家賃の推移は次のようになる。
今年 50,000
1年後 56,850
2年後 64,638
3年後 73,494
4年後 83,563
5年後 95,011
6年後 108,027
7年後 122,827
8年後 139,654
9年後 158,787
10年後 180,541
持家派は問題ないが、賃貸派は家計に影響が出るだろう。
10年後は家賃が月18万円を超える。
家賃上昇は賃金上昇が前提
本書によると、「家賃の高騰」政策を成功させるには「低所得者の賃金値上げ」が必要だとする。
低所得者の賃金の値上げがどれだけ物価上昇に追いつけるかがカギだ。
もし、賃金が上がらないなら公的な「家賃補助」も必要だと思う。
「アベノミクス」は株や不動産などの資産価格を上げる政策だから、成功(不動産価格が上昇)すれば、遅かれ早かれ賃貸物件の家賃は上昇していくだろう。
「株や不動産を持っている者だけが儲けて、持たざる者にしわ寄せがいく」という指摘は間違ってはいない。
しわ寄せを食い止めるためには賃金を上げるしかない。
政府が企業に「賃上げしろ!」というのも、物価だけがどんどん上がっていつまでたっても賃金が上がらなければ社会が不安定化するからだろう。
※本書の出版は2013年4月。まだ消費税増税が決まっていなかった。消費税増税と家賃上昇策をセットで実施するなら、まず賃金をかなり上げないといけない。