岩瀬大輔『がん保険のカラクリ』(文春新書,2012)を読んだ。
ライフネット生命社長が書いた「がん保険」の本だ。
著者が保険会社の関係者だからといって、本書が「がん保険宣伝本」というわけではない。
むしろ逆。
なにしろ、「がん保険に入るより貯金した方がいいよ」と書いているのだから。
本書は「がん保険」の実態だけでなく、がん治療の負担金額、日本の公的医療制度、民間医療保険の問題などについてまとめて学べる。高齢化社会における「日本人の生き方」について考えることができるお得な一冊。
「日本人の半数が生きているうちに”がん”になると言われている」
本書を読めばこのフレーズは不安をあおるためのイメージ戦略だとわかる。「日本人の半分はいつかがんになる」というのは「日本人は長生きになっているがいつか死ぬ」と言っているのと同じだ。「がん」で死にたくなければ「がん以外の死因」ならOKということ?
本を読んだ後は、「がん」という病気に対する「経済的負担感」がけっこう軽くなる。
がん保険が売れるのは「日本人のがんに対する勉強不足・過度な恐れ」が大きいのではないかと感じた。
「がん」に対するイメージ
「がん」は死につながる。「がん」治療は痛みを伴い、精神的につらい。
そして、「がん」治療には大金がかかる。
こうしたイメージも手伝ってか、日本人のがん保険の加入率は約33%(2010年)だ。
3人に1人ががん保険に加入している、がん保険大国。
「がん」治療に大金は必要か
がん保険に加入する動機は何と言っても、
がんの治療には手術、保険外の先進医療、民間療法などに大金がかかると思うから
ではないだろうか。
しかし、本書を読めば思ったより治療にカネがかからないことがわかる。
日本人の間に、がん治療には大金がかかるというイメージが作られてしまっているようだ。
本書で紹介されていた例では、民間の医療保険に加入していれば高額療養費制度等の還付も含め、実質自己負担額は3万円、民間の医療保険に未加入でも自己負担は50万円だ。
50万円という金額は決して安くはないが、破産やホームレスに到るような金額でもないと思う。
保険外の先進医療に大金が必要?
「いや、高額療養費制度でカバーされるのは保険適用内の治療だけだ。保険外の「先進医療」には大金がかかる。だからがん保険が必要なんだ」
という保険会社のセールストークがある。
本書によると、「保険外の先進医療に大金がかかる」というのも「作られたイメージ」であることがわかる。
- 先進治療だからといって、治療法すべてが高価なわけではない
- 大金がかかる先進医療を利用しているのはがん患者の1%にも満たない
保険よりも貯金
どうしても「がん」に備えたいならば、がん保険を考える以前に、300~500万円くらいの貯金を作っておくべし。内訳は、治療代+生活費。
勉強不足や恐怖のせいで無駄な出費をしたり、精神的につらい思いをするのはバカバカしい。
がん保険が無意味だというのではない。「がん」とはどんな病気なのか、「がん保険」はどんな商品なのか、よく勉強すべきだということだ。