熱心な時代劇ファンではないのだが、春日太一『なぜ時代劇は滅びるのか』 (新潮社 2014)を読んだ。
理由は、タイトルに書いたとおり最近の大河ドラマがホームドラマ化していることに違和感を抱いたからだ。
2014年の大河ドラマ『軍師官兵衛』も、黒田ファミリーの和気あいあいとしたホームドラマが展開されていた。
・『軍師官兵衛』の舞台は弱肉強食の非情な戦国時代なのに、この温和なムードは何??
・軍師なのだからもっと陰謀のような汚れ仕事をしていたはずなのに「正義のヒーロー」「マイホームパパ」として描かれている
・戦国武将なのになぜか平和を求めたがる「積極的平和主義志向」
本書を手にとって、最初から読まずに最終章「大河ドラマよ、お前もか!」から読んだ。
致命的なダメージを与えたのは、2011年※の『江(ごう)』だ。
『江』は、これまで議論してきた「時代劇を廃れさせた理由」の大きな要因である「人材の不足」の抱える問題が凝縮された作品であった。
p.172
※本書では「2011年」は漢数字表記だがアラビア数字に変換して引用した。
『江』は実際にわたしも見ていた。しかし、著者が抱いたような大きな失望、怒りは感じなかった。
当時は、「時代劇はこんなものじゃないの」と思って割り切って見ていた。
でも、徐々に「違和感」は増大し、本書を手に取るまでになっていた。
本書を読んで、時代劇の衰退は最近始まったわけではなく、1960年代の「時代劇全盛時代」から始まっていたことがわかった。
「人気にあぐらをかいたこと、人材(役者・スタッフ)を育ててこなかったこと」
これが終わりの始まりだったのだ。
「あぐらをかき始めたら成長が止まり終わりが始まる」
時代劇だけだけでなく、すべての業種、すべての人に言えることだ。
この本を読んで、「過去の栄光にあぐらをかくだけの抜け殻」にならないために何をすべきか、「自己を過大評価して研鑽を積まない勘違いな人」にならないために何をすべきか、ヒントをつかむことができる。
<帯(ウラ)>
時代劇がダメになった本当の理由
・「高齢者向けで古臭い」という固定観念
・『水戸黄門』という特異なシステム
・「自然体」しか演じられないヘタな役者
・「火野正平(=味のある脇役・悪役)」の不在
・マンネリ演出を打破できない監督
・何もかも説明してしまう饒舌な脚本
・朝ドラ化するNHKの大河ドラマ