『知識ゼロからのニーチェ入門』(竹田青嗣(著)・西研(著)・藤野美奈子(画) , 幻冬舎, 2012)を読んだ。
哲学の知識がなくても、ニーチェ思想のエッセンスがわかる本だ。
本の半分がマンガ形式なので読みやすい。
わたしが面白かったのはニーチェの思想、ではなく「彼の人生」だ。
異例の出世から病気退職
ニーチェは子供の頃から天才で、24歳でスイスのバーゼル大学の教授に抜擢される。
当時でも異例の大出世だ。
周囲の大きな期待を受けて教授になったが、初の著書『音楽の精神からの悲劇の誕生』(Die Geburt der Tragödie aus dem Geiste der Musik)で、当時交際していた作曲家ワーグナーを絶賛したことが酷評され、評判が失墜する。
著書のタイトルのように自分の人生に「悲劇が誕生」してしまう。
その後、体調を崩し、大学を休職する。
ニーチェの体調は回復することはなく勤務が困難になり、34歳で教授を辞任、大学を早期退職した。
ニーチェのセミリタイア生活
退職後は大学から支給される年金3,000フラン(本書によると200~300万円)で生活する。
スイスやイタリアの保養地にある安宿を転々としながら、著作活動に入る。
フリードリヒ・ニーチェ……かつては大学教授、今はさまよえる逃亡者……か。
(ニーチェの言葉)
著作活動に入ったが、本はあまり売れず、印税収入だけでは食えない。
「婚活」にも失敗して、孤独な生活。
(「婚活」といっても、出会ってすぐにプロポーズして、相手に即答を求めるというものだったのでうまくいくはずもない)
彼の思想・著作が評価され、世界中で「ニーチェ・ブーム」が起こるのは彼の死後だった。
無名だけど平凡な人生が幸せか
若い時は天才と言われ、超高学歴で出世コースの先頭を走っていたのに仕事で挫折して、病気で休職し、早期退職を余儀なくされ、恋愛はうまくいかず、社会から評価されない……これらがニーチェの思想に大きな影響を与えたと思った。
もし、ニーチェが順調に大学教授をつつがなく勤めあげて、健康で穏やかな老後を過ごしていたなら、「大哲学者」ではなく「無名の学者」で終わっただろう。
レジェンドと 呼ばれる事なく 定年に
(サラリーマン川柳)
「波乱万丈の人生を送って死後に評価され、世界史に残る人物になる」
「無名で平凡だけど、穏やかな人生」
どっちが幸せな人生だろうか?