『古今和歌集』を読んでいたら、めずらしい短歌をみつけた。
マイホームを売ったことを和歌で詠んでいるのだ。
詞書(和歌の内容・背景の説明文)にはズバリ「家を売りてよめる」とある。
早速、短歌を読んでみる。
ちなみに作者は三十六歌仙のひとりで「伊勢」という女流歌人だ。
「家」が「銭」に変わる無常観
家を売りてよめる
飛鳥川淵にもあらぬわが宿もせにかはりゆくものにぞありける
出典『新版 古今和歌集』(高田 祐彦(訳注), 角川ソフィア文庫, 2009, 6版), p. 434
5・7・5・7・7に分けてみるとこうなる。
訳は、上記の出典によると、
飛鳥川の淵でもないわが宿も瀬に変わってゆくものだった。
出典『新版 古今和歌集』p. 435
となる。
マイホームは川の流れのように
当時の奈良を流れる「飛鳥川」は流れが変わりやすい川だったらしく、しかも川の名前の「あす」は「明日」と同じ音なので、「明日は飛鳥川の流れのようにどうなるかわからない」と人々に「無常」を連想させた。
この歌の中には、飛鳥川の流れが「淵」(水が深くよどんでいる場所)が「瀬」(水が浅く渡れる場所)に変わることと、「瀬に」と「銭」を掛けている。
つまり、家を売って「
やってることは家を売って代金を受け取ったに過ぎないのだが、無常観を交えて歌に織り込む……さすがは伊勢だ。
お金が好きな人には「風流」な歌といえる。