鈴木大介『振り込め犯罪結社 200億円詐欺市場に生きる人々』(宝島社 2013) を読んだ。
振り込め詐欺の実態を描いたノンフィクションだ。
振り込め詐欺のシステムがほとんど「株式会社」とイコールなのは驚いた。
振り込め詐欺の仕組み
振り込め詐欺はこんな感じで「組織」で実行される。
- 詐欺の実行犯をスカウトしてきて「研修」を実施する。
- 「研修」終了後、適材適所に人材を配置する。演技力があれば警官、弁護士役などを演じるプレイヤーになれる。能力が一番低い者はATMからカネを引き出す「ダシ子」に配属される。
- 詐欺グループ内の売上げ競争で勝ち上がっていけば、管理職(番頭)に昇進できて、報酬も上がる。
- 売上から経費(人件費、研修費、携帯電話代、名簿代等)を差し引いた「純利益」を詐欺グループの出資者(金主)に「配当」として渡す。
もはやこれは「会社」だ。
詐欺という犯罪を犯していること以外は普通の会社のシステムと同じだ。
会社システムで詐欺を行うメリットは「主犯」が誰なのかあいまいになること。
一番逮捕されるリスクが高いのが、ATMからカネを引き出す役の「ダシ子」だ。
ただ、「ダシ子」を逮捕しても詐欺事件を解決したことにならない。
「ダシ子」は単にATMからカネを引き出そうとしただけなので「詐欺師」ではない。
よって、「ダシ子」を逮捕しても詐欺罪では立件できず、逮捕された「ダシ子」は微罪で処罰することしかできないらしい。
責任者をあいまいにできるシステム
責任を取らされる(逮捕される)のは現場の担当者だけで、偉くなればなるほど責任を取らなくてもすむ。
これもサラリーマン組織に似ている。
会社も経営が傾くと従業員をリストラして生き残ろうとするでしょ?
振り込め詐欺の主犯は誰なのか。出資した金主なのか、実行犯のとりまとめ役なのか、電話の向こうで警官を演じたプレイヤーなのか、、、誰が責任者なのかがわからない。
「会社」という組織は、責任者を不明確にするにはもってこいのシステムなのだ。
振り込め詐欺の完成度の高いビジネスシステム、リスク&リターン、どれくらい稼げるのか、稼いだお金でリタイア後に何をやっているのか、詐欺に引っかからないための予防策などに興味のある人は読む価値がある。
※最近の振り込め詐欺は、名簿で見つけた孤独な老人の家に数人で押しかけて車で銀行まで連行して、無理やりカネを引き出させるらしい。被害者は報復を恐れて警察に通報しないので何回も被害にあうようだ。振り込め詐欺というより誘拐&強盗になっている。小金を持って地域で孤立して暮らしている独身者は要注意だ。金融資産を持つ場合、現預金は最小限に抑えて残りは換金に時間がかかる債券、株、投資信託等にしておいたほうがいいかもしれない。