江上剛『会社を辞めるのは怖くない』 (幻冬舎新書, 2007) を読んだ。
著者はみずほ銀行を早期退職して専業作家に転進している。
早期退職を心のなかで決めて、具体的に準備を始めている人は勉強になる本だ。
本書では退職の準備方法から、退職後の進路別(他社へ転職、独立)のプランまで提案している。
会社を辞める恐怖
タイトルは「会社を辞めるのは怖くない」だが、実際に辞めるとなるとやはり怖い。
転職慣れしている人は退職はそれほど怖くないかもしれない。
が、わたしのように転職経験もなく、ひとつの組織に20年近く居続けたら、「辞めても大丈夫なのか?」という不安の方が大きい。
著者は銀行在職中から小説を書いていてた。
やはり、出版社の編集者から「絶対に会社を辞めるな」と何度も釘を差されていた。
理由はもちろん、「専業作家」で食べていける人はほとんどいないから。
わたしの想像では、「銀行を辞めて経済的に不安定になると生活が荒れて書けなくなる」と出版社が心配したからなのではと思う。
でも、彼は銀行を辞めた。
「みずほ銀行」という超大手の銀行に勤めていたのに、辞めた。
組織の一つの駒から、一人の人間に戻ったのです。
本書「まえがき」 p.7
「駒から人間になる」って、組織から足を洗った人間にしかわからない感覚だ。
早期退職最大のメリット
わたしも痛感しているが、会社を辞める最大のメリットは「人間関係をコントロールできるようになる」ことだ。
これがなければ「会社を辞める意味はない!」と言っていいほど巨大なメリットだ。
つまり、付き合いたくない人とは付き合わなくてもよくなる。
仕事が嫌になる最大の原因は「人間関係」だ。
特にサラリーマンは「仕事≒人間関係」だ。
人間関係がダメダメだと、いくら業務内容が楽でも、毎日定時で帰れて有給休暇が自由にとれても、仕事が嫌になる。
上司、部下、取引先は選べない。
著者も退職後は「ストレスが溜まらない」という。
締め切りに追われたり、本が売れるかどうかという不安はあるが、ストレスは少ないようだ。
どうしてストレスが溜まらないといいますと、人間関係に尽きます。サラリーマンは、上司、部下、同僚との人間関係をどううまくとっていくかに毎日悩んでいます。どんなアンケートでも職場の悩みは人間関係が必ず一番です。フリーになれば、それがまずありません。嫌な人とは極力関係しないようにすればいいのです。
p.145
「フリーランス」という言葉は「人間関係が自由(フリー)に作れる」という意味なのだ。
会社を辞める恐怖を乗り越える
わたしが会社を辞めて感じたことは、「会社を辞める」ということをあまり大げさに考えないほうがいい、ということだ。
死ぬまでお金に困らないほど貯めこんで、退職後に何をやるかを完璧に決めて、、、といった「準備」をしてから会社を辞めよう、と思い込みがちだ。
でも、完璧な準備なんて不可能だから「準備」だけで人生が終わってしまう。
会社を辞めるのは怖い、だけどそれほど大きなイベントでもない。
「どんな人生を送りたいのか」を自分の中に持っていれば、少なくともお金に関していえば「大丈夫」だ。
「お金だけ」がネックで辞められないとしたら、ちょっとビビり過ぎ、と断言できる。