井原西鶴『日本永代蔵』の「世は欲の入札に仕合せ」というエピソードを読んだ。
夫に先立たれて莫大な借金を背負ってしまった38歳の女性が、起死回生の策で借金を完済するだけでなく、金持ちになる話だ。
あらすじはこうだ。
奈良に裕福な商人の夫婦がいた。
毎日ぜいたくな生活をしていたが、やがて商売が傾き、貧しくなっていった。
そして、夫は50歳の時、莫大な借金を残して死んだ。
借金の総額は銀5貫だった。
「銀1貫」を現在の日本円に換算すると220万円※1らしいので、銀5貫は1,100万円だ。
妻が38歳の時だった。
マイホームは担保に入っていて、借金を返さないと家も失う。
こんな窮地に立たされた妻が、「起死回生の策」でピンチを乗り切るという物語だ。
借金を一瞬で完済しただけでなく、金持ちになってしまう。
さすが商人の妻、かしこい。
彼女はどうやって大金を作ったのか
詳しくは『日本永代蔵』を読んでください、と書いてしまうと中味のない記事になってしまうので、少し書こうと思う。
働かずに3,000万円近い現金を一瞬で手に入れた方法を。
初めは働いて借金を返済しようとしたが、ダメだったらしい。
当時は江戸時代、女手一つで1,100万円もの借金を働いて返すなんて、かなり難しい。
家を債権者に渡して借金をチャラにしようとしたが、彼女に同情して家を受け取ろうとする債権者はいなかった。
債権者が抵当権を行使しなかったのは、単に彼女に同情しただけでなく、「家の値段が借金の総額を下回っていたから」という現実的な理由もあった。
現代風にいえば「住宅ローン残高>家の時価」だ。
家を売却しても借金を全額回収できないおそれがある。
8,800円で家が持てる
そこで、彼女は「頼母子の入札」(たのもしのいれふだ)で家を処分することにした。
頼母子(たのもし)
金銭の融通を目的とする民間互助組織。一定の期日に構成員が掛け金を出し、くじや入札で決めた当選者に一定の金額を給付し、全構成員に行き渡ったとき解散する。鎌倉時代に始まり、江戸時代に流行。
『デジタル大辞泉』
彼女は「頼母子」を利用して、「自分の家」を賞品とする「くじ」を1枚あたり銀4匁(8,800円)で売った。
「8,800円で家が持てる!」
と大好評で、くじは3,000枚売れた。
結果、現代の貨幣価値で2,640万円を手に入れることができた(8,800 円 × 3,000 = 2,640 万円)。
借金は1,100万円なので、彼女の手元には1,540万円残った(2,640 万円 – 1,100 万円)。
彼女は手にしたお金を元手に、さらに金持ちになりましたとさ。
めでたしめでたし。
「お金を稼ぐには働くよりもお金を持ってる人から集めるほうがラクで手っ取り早い」というのが「やまとなでしこ流の稼ぎ方」なんだな、と感心した。
下手なビジネス書よりも『日本永代蔵』だ。
※1 『新版 日本永代蔵 現代語訳付き 』p.518より。
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※注意※ 現在は日本国内で「富くじ」を発売・授受することは法律で禁じられている。
刑法 第187条 富くじを発売した者は、二年以下の懲役又は百五十万円以下の罰金に処する。
2 富くじ発売の取次ぎをした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
3 前二項に規定するもののほか、富くじを授受した者は、二十万円以下の罰金又は科料に処する。出典刑法(e-gov)