先日、夜眠れなかったので『モチーフで読む美術史』(宮下規久朗(著),ちくま文庫, 2013)を読み直した。
文庫サイズの画集だ。
古今東西の名画を、モチーフ(創作の動機となった主要な思想や題材)別に紹介している。
眠れない夜に画集を見た理由は、「文字の多い本を読むと余計に眠れなくなるかもしれない」と思ったからだ。
たまたま開いたページが「分かれ道」という章で、「分かれ道のヘラクレス」(アンニーバレ・カラッチ作, 1595年, ナポリ・カポディモンテ美術館)という絵が紹介されていた。
この絵を見てセミリタイアを選ぶかどうか迷っていた時期を思い出した。
絵はこんな感じ。
出典ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons): “Annibale Carracci, Hercules at the Crossroads, brighter.jpg”
セミリタイアは悪徳か美徳か
分かれ道にさしかかったギリシャ神話の英雄ヘラクレスが2人の女性に出会う。
一人目の女性は「悪徳」の道に来るようヘラクレスを誘う。
「悪徳」というのは「悪事」というより「快楽」「怠惰」というニュアンスがある。
もう一人の女性は「美徳」の道に進むように勧める。
最終的には「栄光」に至るが厳しい道だ。
この絵では左の女性が「美徳」、右の女性が「悪徳」だ(見ればわかる?)。
セミリタイアという人生は「悪徳」なのか「美徳」なのか。
セミリタイアはラクだけど
会社を早期退職して「快楽」や「怠惰」を追求できると思うなら、「セミリタイア = 悪徳」なのかもしれない。
しかし、実際に会社を辞めてみると、毎日「何をするか?」を色々考えることが多い。
自分で考えて自発的に動いていかないと、無為な時間がどんどん過ぎていってしまう(「無為」な時間も楽しいが)。
決して「怠惰」な日々が続いているわけではない。
サラリーマン時代のように「理由がよくわからないけどバタバタする多忙な毎日」というわけではないが、頭の中は毎日忙しい。
気を引き締めるための絵
ちなみに、今回紹介した「分かれ道のヘラクレス」という絵は「若いときは安易な道でなく、あえて苦労を選ぶべきだ」という教訓を示す絵として、貴族の子弟の勉強部屋に飾られていたという(本書p. 235)。
セミリタイアという人生は「安易な道」か?
▼続編