朝日新聞社の2020年度中間連結決算は、社長が引責辞任するほどの「大赤字」だった。
参照朝日新聞社、コロナ影響で9年ぶり赤字 9月中間決算(2020.11.30 朝日新聞デジタル)
上記記事によると、売上は前年同期比▲22.5%の1,390億9,000万円、営業損益が▲92億9,100万円だった。
加えて、こんな記述があった。
業績の動向などから、将来の利益を前提に税金の前払い分を資産として計上する「繰り延べ税金資産」を取り崩したため、純損益は419億800万円の赤字となり、中間決算として9年ぶりの赤字となった。
※強調は引用者による。
「繰り延べ税金資産って何?」
朝日新聞は「繰り延べ税金資産の取り崩し」のため、赤字額が激増したようだ。
「繰り延べ税金資産」とは何か調べてみたら……「劇薬」だった。。
繰り延べ税金資産とは
繰り延べ税金資産とは次のとおり。
「税効果会計」のひとつ。企業会計上の「資産」または「負債」と、税法上の「資産」または「負債」との差額を調整するための勘定科目で、前払いした税金がいずれ戻ってくるだろうという想定のもと、払いすぎた税金相当額を貸借対照表の資産の部に計上する。
出典「証券用語解説集」(野村證券)
つまり、前払いした税金を資産として計上しているのが「繰り延べ税金資産」だ。
上記の用語の説明だけではまだまだわからない人が多いと思うので、簡単に説明する。
なぜ税金を前払いするのか
なぜ税金を前払いするのか?
それは、税務署から経費として認められない支出を計上するからだ。
例えば、会社が社員の将来のボーナス支給に備えて「賞与引当金」を100万円計上したとする。
会社から見ると「賞与引当金」は社員に払うお金なので「経費」だ。
なので、利益から「賞与引当金」の100万円を控除した金額で納税額を計算してほしい。
が、税務署から見ると「賞与引当金」はボーナスを支給したときにはじめて経費となるので、賞与引当金を計上しただけでは経費とは認められない。
なので、会社は賞与引当金の100万円にかかる税額を「前払い」することになる。
この前払い分を資産として計上しているのが「繰り延べ税金資産」だ。
ためこんだポイントは使えなくなったら価値ゼロ
朝日新聞が大赤字になった理由は「繰り延べ税金資産の取り崩し」だった。
「取り崩し」とは繰り延べ税金資産が「資産価値を失った」という意味だ。
繰り延べ税金資産は、いわば「納税でのみで使えるポイント」みたいなものだ。
朝日新聞は営業損益が▲92億9,100万円という「赤字決算」に転落したので納税する必要がない。
なので、繰り延べ税金資産という「納税でのみ使えるポイント」を大量に持っていても赤字決算で納税の必要がないのだからポイントを使えない。
「使えないポイントに価値はない」ので「繰り延べ税金資産の資産性が否認」され、資産として積んでいた分を費用で処理しなくてはならなくなった。
なので、赤字が膨らんだ。
赤字が赤字を呼ぶ形になったのか。会計って面白い。 "「繰り延べ税金資産」を取り崩したため、純損益は419億800万円の赤字となり、中間決算として9年ぶりの赤字となった。" 朝日新聞社、コロナ影響で9年ぶり赤字 9月中間決算:朝日新聞デジタル https://t.co/HCIZcRZBV6
— Kotaro – soutai40.com (@Kotaroux) December 1, 2020
勲章が劇薬に
「繰り延べ税金資産」とは「継続して黒字を出せる優良企業」と認められた会社が「資産」として計上できる、いわば「勲章」みたいなものだ、とわたしは感じた。
優良企業と認定されて与えられた勲章は、決算が赤字になると勲章としての資産価値がなくなり、一転して「費用」としなければなくなる。
決算が黒字から赤字に転落するだけでも大変なのに、さらに「繰り延べ税金資産の取り崩し」で追い打ちをかけられて赤字額が膨らむ。
まさに、「劇薬」だ。
参考文献
「繰り延べ税金資産」については、この本の説明が非常にわかりやすかった。