軍事音痴の集団的自衛権3つの誤解

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airborne war

伊勢崎賢治『日本人は人を殺しに行くのか 戦場からの集団的自衛権入門』(朝日新聞出版, 2014)を読んだ。

おどろおどろしいタイトルから、「日本が集団的自衛権を行使したら自衛隊が海外に戦争しに出かけて行って人を殺すかもしれないぞ!おー怖い怖い」みたいな「朝日新聞が出した煽り本」をイメージするが、違う。

集団的自衛権の議論以前に、そもそも日本の安全保障についての議論がいかに「的外れ」かがわかる本だ。

わたしのような軍事音痴も次のような「的外れ」な理解を3つしていたことがわかった。

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集団的自衛権行使で戦争に巻き込まれる?

誤解①:日本が集団的自衛権を行使すると、自衛隊はアメリカが引き起こす戦争に「強制参加」させられる

これは「同盟国が攻撃されたら自動的に戦争に参加しなければならない」という誤解だ。

例えば、ヨーロッパのNATO加盟国はアメリカが起こした戦争(アフガン戦争、イラク戦争)に参戦したが、参戦するかどうかは「メリットがあるかどうか」で決めていいそうだ。

自国にとってメリットがなければ「戦争反対」を表明して参戦しない(イラク戦争ではNATO加盟国のうちフランス、ドイツが反対を表明)。

日本はアメリカの同盟国なのだから、集団的自衛権を行使してアメリカの戦争に「強制参加」させられる、というのは誤りだった。

アメリカから参戦要請があったとしても、日本にとってメリットがなければ要請を拒否すればいい……ただし、アメリカに「ノー」を言えるだけの強力な政治家のリーダーシップ、それに平和を愛する国民の民意が必要だ。

逆に、日本が他国に攻撃された時、アメリカが助けに来るかどうかは「日本を助けることがアメリカの国益になるかどうか」で判断されるだろう。

戦争は友情や義理でなく損得勘定で行う」というのが国際社会の常識だった。

カネしか出さないから尊敬されない?

誤解②:日本は資金援助だけでなく出兵などの人的貢献もしないと諸外国から感謝してもらえない

これは第1次湾岸戦争のとき、戦争終了後に当事国クウェートが米国の新聞に感謝広告を出した時に、「お金しか出さなかった日本」が感謝の対象国に入っていなかったことが「トラウマ」になっていてるらしい。

日本が「お金だけじゃダメなんだ、やはり自衛隊を派遣して汗をかかないと評価されないんだ」と勝手に思いこんでいるらしい(湾岸戦争のトラウマ)。

一口に130億ドルの支援といっても感謝されなかった。いや、実は、この「湾岸戦争のトラウマ」とは、直接的には、当事国のクウェートが戦後出した米国新聞の感謝広告に「JAPAN」がなかったというコンテクストで使われるのだが、しかし、これも考えてみれば当たり前のことなのだ。

 実は、90億ドル支援(当時のお金で約1兆2000億円)のうち、クウェートに払われたのはたった6億円だったという事実を知らない人が多い。1兆円以上のお金は米国のために支出されたのだ。

衆議院議員・江田憲司氏のサイト「江田けんじNET」より


つまり、クウェートが日本に感謝しなかったのは「感謝する理由がなかったから」だ。

「日本がお金だけだしてお茶を濁そうとしたことを根に持っているからではない」ということがわかった。

もちろん、クウェートに大金を援助していれば感謝の対象になっていたはずだ。

自衛隊は軍隊ではない

誤解③:自衛隊はどう見ても軍隊でしょ

これが本書を読んでいちばん「目からうろこ」だったこと。

自衛隊は軍隊ではないというのが実情だ。

日本国憲法9条で「戦力を保持しない」ことになっているので「自衛隊は軍隊か否か議論がわかれる」ということではない。

自衛官は戦闘服を着ているし、戦車・戦闘機・イージス艦のような兵器を持っている。

どうみても「軍隊」にしか見えない。

でも、実際は「軍隊」ではない。

理由は「軍法」と「軍事法廷」を持っていないからだ。

陸海空軍に相当する戦力は持っているのに、「軍法」「軍事法廷」という「戦力でないもの」を持っていないというだけで「軍隊ではない」というのだから皮肉だ。

「軍法」とは自衛官を取り締まる法律であり、「軍事法廷」は「軍法」を犯した自衛官を裁く場所だ。

当然、軍隊の警察に相当する「憲兵」も必要だろう。

治安が崩壊している「戦場」で自衛官を取り締まるのは警察では無理だ(警察が治安維持できないから戦場になっている)。

刑法とは別に軍法を作って、軍法を守らせるための憲兵が必要になる。

日本が憲兵を持てないのは「戦前の怖い憲兵」のトラウマがあるからでは、とわたしは思っている。

憲兵
(画像引用元:Wikipedia”憲兵(日本軍)”

「軍事法廷」はアメリカ映画『ケイン号の叛乱』や『ア・フュー・グッドメン』の法廷シーンで見たことがある人が多いと思う。『ケイン号の叛乱』では米軍艦ケイン号乗組員達の艦長命令違反事件が、『ア・フュー・グッドメン』ではキューバの米軍基地で起こった兵士同士の殺人事件が「軍法違反」とされていた。

「軍法」がない問題は「自衛官がみな善人である」という前提で軍事行動しなければならないということだ。

今のところ、自衛官の規律が非常に高いので問題は起こっていないが、これからどうなるかわからない。

お偉いさんの怠慢を現場の「がんばり」で挽回する……日本軍の時代からやっていることだ。

とにかく、自衛隊の海外派遣を議論するのに「軍法」がないことがまったく問題視されていないことに、空恐ろしさを感じた。

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